今日は何も用事がないらしく、母も付き添いにきてくれた。
入院受付で手続きをすませる。
事前に今回の入院費用を問い合わせたら
保険適用で自己負担額が10万円前後と聞いたので、市役所で交付された高額医療費制度の紙も一緒に提出する。
1ヶ月入院する場合で医療費が高額になる場合は、申請すれば自己負担額が上限8万いくらまでになり足りない分は市が負担してくれるらしい
ただ、差額ベッド代や病院食は自己負担。
ふと入院受付待合室の壁を見ると、4人部屋からデラックス個室までの差額ベッド代料金表が貼りだしてあった。
1番安い4人部屋でも1日税抜き2500円かぁ
どうか個室なんてことありませんように‥
ドキドキしながら、案内された新築の病棟の部屋に行くと10畳はあろうかという豪華な個室!
しかも、シャワー、トイレ、洗面台付き。
ちょっとしたシティホテル並みです。
嬉しいような悲しいような‥
「すいません、さっき何も説明されなかったんですけど、ここって差額ベッド代いくらですか?」
思いきって案内してくれたヘルパーさんに聞いちゃいました。
だって、赤ちゃん以外のことをモヤモヤ気にしながら二泊三日過ごすのは嫌だもの!
「あ、ここはMFICUという特別病棟なので差額ベッド代はないです」
「!そうなんですか」
ちょっと拍子抜け‥でも助かった!
周りを見ると12部屋の個室しかなく、しかもこの病棟に外部から入るにはセキュリティカードが必要だということを聞かされました。
あとで調べてみると、MFICUとは
Mが母親、Fが胎児、ICUで集中治療室という意味だそうです。
「すごい部屋だねぇ。前にお父さんが入院してた個室より豪華かも。ただ、ここは談話室もないし、自販機に行くにも売店行くにもセキュリティがあるからちょっと面会とかも大変そうだね」
「周産期にチカラを入れてる病院だからかなー。でも、何となく病棟というよりは研究所っぽくない?」
荷物を片付けながらそんなことを言ってると、看護師さんが部屋に入ってきて入院時の説明をしてくれた。
「基本、入口でインターホンをしていただければお伺いしてセキュリティをあけることができますが、カードをお渡ししますのでなるべくこれで出入りするようにしてください。」
何となく、外出もしにくそうな感じだ。
「ただ、今回の場合は短期の検査入院なので先生によっては突然エコーをみたりするかもしれません。なのでできるだけ病室内にいてください。」
えー!!
というかやっぱり
売店とかウロウロするの、好きなんだけどなぁ。
あとは、冷蔵庫使用が1日150円。
テレビカード一枚1000円。
コインランドリーが一回100円。
といった感じでサラッと説明は終わった。
「早速ですけど、先生が赤ちゃんの様子を見たいとおっしゃってるのでエコー室に来てください」
エコー室は部屋を出て斜め向かいにあった。母も一緒に見ていいらしい。
「はじめまして。Nといいます!よろしくお願いします。」
初めて見る若い男の先生だ。
そういえば、何人かの先生で見るって言ってたっけ。
先生によって、エコーの仕方も多少違うんだなーなんて考えながら約30分診察台で横になっていた。
ここの機械は3Dらしく、モニターにはカラーの立体的な赤ちゃんが映る。
あまり顔が可愛いとは思わなかったけど笑
初めてリアルに赤ちゃんを見れた!
先生は無言で赤ちゃんの顔と手足をいろんな角度から見ていた。
グリグリされるとちょっと痛い
「はい!お疲れ様でしたー!
今日はこんな感じでいろんな先生がエコーを見にくると思います。
明日は、妊娠糖尿病を調べるために血液検査をして、午後からMRI。
その間にまたエコーをみるかもしれません。
明後日は午後3時くらいに今までの結果を元にM先生がお話してくださるので、旦那さんにも来てもらうようにしてください。
その後なにもなければ退院です。」
そうか。
明日は忙しくなりそうだな
部屋に戻るとお昼の分の病室食がきていたので、私はそれを食べ
母は途中コンビニで買って来たパンを食べていた。
「病院食、美味しい?見た感じ色素が薄いけど」
「あんまり‥食べてみる?」
「いい。(即答)
それより明後日だけどお母さんも一緒に結果聞きにきていいかなぁ」
やはり気になるようだ。
「うん。いいと思う。前にM先生にエコーみてもらったときは手について言われなかったけど、さっきの先生はやたら見てたよね。やっぱりなんかあるのかなぁ」
「それもひっくるめて最終日にお話してくれるんじゃない?」
パン食べたし、晩御飯の支度しないといけないからもう帰るね。と母は病室から出て行った。
時計をみたらもう3時をまわっていた。
ご飯を半分残して、私も食器を片付ける。
張り止めの薬を飲まなきゃ。
サイドテーブルにはチェックシートがあって、1日のトイレの回数、薬を飲んだかどうか、食事の食べ具合まで細かく書いていかないといけない。
それに加えて1日2回、看護師さんがやってきて赤ちゃんの心拍数と私のお腹の張りを観察して記録するモニターを40分つけ(NSTというらしい)
体温と、血圧を測ったりする。
この日も時間をおいてNSTを2回行ったけど、私の場合羊水が多すぎて赤ちゃんがすぐに移動してしまうため、なかなかスムーズにいかない
寝ながらとはいえ1時間近く機械をつけて身じろぎできないのは結構苦痛だ。
「赤ちゃんは元気ですね!
ただ、やっぱりお腹の張りがすごいですけど、出血したり痛くはないですか?」
「ないです。人より張りやすいんですかね?他の人はもっと柔らかいんですか?」
「個人差ありますけど‥、でもいつもと変わりないんだったら大丈夫です!
失礼しまーす」
病室に1人になると、途端に暇を感じた。
本は持ってきたけどあまり読む気がしないし、仕方ないので窓から下の道路を眺めてみる。
さすが大病院だけあって、外来の終わった午後でも5箇所ある駐車場はどこもいっぱいだ。
あちこちで、駐車場待ちの渋滞ができている。警備の人も忙しそうだ。
‥甘いもの食べたいな。
ふと思い立ち、LINEで旦那さんに
「あんこものが食べたい」とメールをしてみる。
明後日の先生の説明は来るといっていたけど、普段仕事が終わるのは8時くらいで
病院の面会時間も8時だから今日、明日は行けるかわからないといっていたけど
できたら来て欲しい。
そして、この豪華な部屋をみて欲しい
笑
しばらくして、今回私の担当だという看護師さんが入ってきた。
20代半ばぐらいの小柄で可愛らしい人だった。
「日差しすごくないですか?外、暑いですよ~^ ^海行きたくなっちゃいますよー!」
そうか。この子はきっと毎年友達や彼氏と海に行くんだな。
私は今だったら海より高原とか涼しいところの方がいいなーと思ったので
あいまいに笑ってみせた。
あと5年若かったら私も海派だったかも。
「ところで、ちょっと書いていただきたいものがあるのでこちらを記入してください。またあとでお伺いしますね」
見ると、病気?について気になること、看護師、医師に質問事項があれば書いて下さい。となっている。
病気がわかった場合、知らせる相手と
どこまで知りたいかなども。
とりあえず、わかったことはなんでも知りたいとだけ書いておいた。
夕方になり晩御飯を済ませるとさっきの看護師さんがやってきて、私の記入した用紙を見ながらいろんな質問をしてきた。
「はじめて赤ちゃんに何かあるかもしれないとわかった時はどうでしたか?」
「うーん‥まず、将来どうやって育てたらいいのかなっていう不安と、この子と周りに対する申し訳ない気持ちでいっぱいでしたけど、私がクヨクヨしたりないたりしたらダメだと思って仕方ない!と気持ちを切り替えるようにしました。
ネットで治す方法調べたり、こうだったらこうしようとか、学校調べたり」
この答えは、あまり期待に添えなかったみたいで
それからも看護師さんはいろいろ突っ込んで質問してきた。
‥私に何を言わせたいんだろう??
一生懸命だし、好感が持てる人だったのでイライラはしなかったけど、ちょっと違和感を感じた。
「旦那さんとも話をしましたか?」
「しました。はじめはショックだったみたいですけど、旦那さんも仕方ないけど頑張ろうみたいな感じで今では前向きです。」
‥この答えも違うのかな‥?
「あ、あと、質問というか母とも話をしていたんですけど、赤ちゃん用品をそろそろ揃えなきゃって。産まれてきてすぐには退院できないかもしれないけど。
ベビーカーとかはまだ早いですかね?」
「あっ、そうですね!とりあえず赤ちゃんの肌着だけでも十分だと思います。
あと、新生児用のチャイルドシートもあれば」
「あとは、そうですね‥」
必死で看護師さんの求めている答えを探す私。
「私、過去に何度か流産していて、その度に友達に報告するのが申し訳なかったんですけど
今回もやっとここまできて、どうなるかわからない状態でまた辛い報告をするのかと思うと‥」
話すうちに思いがけず涙が出てきた。
私はこの時点で赤ちゃんは何かしらの障害があるかもしれないけど元気に産まれて、治しながら成長していくものだと思っていたのでここでの辛い報告は、障害の意味
だったのだけど
「そう。それです。
辛いとか悲しいとかを押し込めて強く振る舞ってるとパンクしちゃうので、私でよければどんどん弱音吐いてください!」
やっと正解だったらしい。
でも、当事者はいつまでも悲しいとか辛いとか言ってる場合じゃない気がする‥
それはジジババに任せて
私は母親として事実を受け入れつつ、気持ちを切り替えてこれから赤ちゃんを守らないといけないと思うんだけど‥
違うのかな。
この時は、看護師さんたちと私の間に赤ちゃんに対する大きな見解の違いがあるなんて気づきもしなかった。
7時ぐらいに旦那さんが面会にきてくれた。お饅頭付きだ!
部屋で10分ぐらい話をしていると
また違う先生がエコーをするので来てくださいと看護師さんが呼びにきた。
せっかくなのでと、旦那さんも同席することに。
今回エコーをみてくれるのは妊婦検診の時、M先生の後ろに控えてた若い女の先生だ。
「夜に呼び出してすみません。ちょっと見せてくださいねー」
見かけによらず、結構強い力でグリグリ見るのであっと言う間にお腹は赤くなり、固く張ってしまった痛い
でも真剣にモニターをみている先生を前に何も言えず、じっと我慢するしかなかった。
どうやらこの先生は心臓を中心にみているらしい。
無言のまま20分、30分、40分経過‥
面会時間終了の時刻が近づいている。
ふと旦那さんの方をみると、同じく時間が気になるらしくソワソワ落ち着かない様子。
(もう失礼した方がいいんじゃない?まだ終わらなそうだし‥)
目配せで退室をすすめてみる。
それに先生が気がついた。
「どうしましたか?」
「あ、あのそろそろ面会時間終了なんで僕はこの辺で失礼します」
結局ほとんど話せなかったし
無言のエコーに付き合わせてしまって
申し訳ないことをしたな
それにしてもこの先生、何分みるつもりなんだろう。
長時間同じ体勢を取り続けているせいで身体はあちこち痛いし、クーラーの真下でジェルを塗ったお腹をだしているからすごく寒い‥
誰か助けてー!!
旦那さんが帰ってから更に30分がたったころようやく担当の看護師さんが先生に声をかけてくれた。
「失礼します~。私もエコーみていいですか?
わー!赤ちゃん可愛いですね
あと、先生、そろそろ‥」
「あら?ごめんなさい。私そんな長く診てたかな?」
「そうですね。少し‥30分ぐらい」
いや、違うだろ!
優に1時間は超えてたよー
「じゃあ、もうすぐ消灯時間なんでお部屋に戻りましょうか!
明日はたくさん検査があるので今日はゆっくり休んでください。
先生、失礼します!」
部屋に入る直前、
「‥すいません。あの先生、夢中になるといつも時間忘れちゃうみたいで。
1時間近く診てましたよね?」
わかってたんかい
でも、看護師の立場的上
先生にはあまり強く言えないよねぇ‥
その後消灯間際に慌ててシャワーを浴び、
真面目に電気を消したはいいものの
1日目はなかなか寝付けない夜を迎えたのでした。